緋女 ~前編~
「ショウこそ、バカだよね」
私は言った。
「少なくともショウのおかげじゃあないよ」
そう言ったときのショウの姿がとても悲しかった。少しの言ったことへの後悔。
でも、私たちには分かち合える時間がたくさんあるはずで。それに間違いはない。
けど、改めて思うこともある。
言葉で伝えられるものは、ほんの少ししかない。
言葉にしてしまえば、伝えたいことなんて本当にあっけないものになってしまう。
なのに殺傷能力はどんなものよりも優れていて、不用意に人を傷つける。
ああ、言葉とはなんと表現に貧弱で、美しい凶器なんだろう。
「___そんなの、分かってる。分かってるけどさっ」
ショウの言葉にならない思いがその漆黒の瞳に浮かんでいた。
でも、私は伝えることを止めようとはもう思わない。
人に何かを伝えようとすること。それは多分とても怖いことで、だから私はいつも黙ってしまっていた。
でも、本当はこんな自分でも人に認められたくて、黙ったままでも自分を認めてもらえるように、とにかくたくさん勉強した。
あの時の私は届かなかった時の想いを恐れていた。
でも、もうそんなことはしない。
傷つけて、傷ついて、その先に見える何かを私は今日知ってしまったから。
「ねえ、ショウ。昨日さ、屋上登って言ったこと覚えてる?」
「えっ?」
「私さ、“本当に欲しいものは手に入らない。どんなに頑張ってもね”って、なんかカッコつけたこと言ったよね」
その時、ショウが私に言ったこと。
それはきっと私の心を正確に射ぬいていた。
「覚えてない?」
「………発言には責任取らない質だから」
「そっか。でも、私は覚えてる」
多分、この先もこの言葉は忘れない。
「“えー、偽物じゃダメなの?”って。あれ、グサッてきた」
「それが___なに?」
「私はさ、たくさんのものショウに貰ってるよ?けど、私が今日を良かったと思えるのは」
私は大きく息を吸った。
「結局、そう感じてる自分のおかげだよ」
私は何の慰めにもならないことを言ったのだと思う。けど、ここでショウのおかげとかデイリーさんのおかげとか言うのは少し違うと思った。
確かに影響は受けた。でも、受け取って考えたのはあくまで自分自身。
それを譲るつもりはなかった。
もう、自分を誤魔化したり、黙ったままを良しとはしない。
それでも言葉は私たちを繋ぐから。
まったく。言葉は不思議で厄介。だけどだから面白い。
伝わったとき、最高に嬉しい。
私たちはそれを知っているから、言葉なんてモノを使うのだ。
それを誇りに思う。