緋女 ~前編~
たぶんショウはこんな自分見られたくなかっただろう。私は言いかけていた言葉は飲み込んだ。
そして、代わりに約束をする。
「だから、ため息は明日にとって置いてね?」
「は?」
怖かった、また明日の約束だ。
ショウはそんなのいらないって言ってくれたけど、やはり約束は相手への誠意とか信頼とか、そんなことを示す大切なものだと思ったから。
「明日もたくさんおしゃべりしよう。約束」
私の大好きな三日月の面に雫が伝う。
「___自惚れないでよ」
私は慌てて繋いでいた手を離し、その雫をなでた。
「僕を傷つけるとか、不可能だから」
「うん」
「だから、遠慮とかいらない」
「うん」
「僕は約束はしない主義だけど、相手が約束を守らないのは許さないよ」
「うん」
どこまでも素直じゃない小さな私の友達。
最後の雫を拾ったとき、私は手を離した。
「ショウ。じゃあ、明日ね」
私がそう言って歩き出すと、それを追いかけるようにして足音がついてくる。
全く、本当に素直じゃない。
でも、だから私が代わりに素直でいてあげるんだ。
たくさんの好きを伝えて、私なんかの言葉でこんなグシャグシャに濡れるような孤独、忘れさせよう。
本当に、時間だけはまだこれからたくさんあるのだ。
ここが、私の世界だから。
私はその足音の主に振り返った。
「やっぱ、今話してもいい?」