緋女 ~前編~
城に着いたのは深夜だった。
王との約束のため自分の影である黒豹を先に城に送った。
基本的に影は自分の側にあるべきものだから、負担は大きい。
彼女も背負って魔法で飛ぶのもありだったが、なにせ今日は疲れた。
今日はもう魔力を使わないと決めて、古い町を出る。
一番近い役所に立ち寄って、俺は側近の証であるローブを翻して見せた。
………気に入らないが便利なローブだ。
そうやって手にいれたペガサスに乗り優雅に帰城する。
その間も彼女は起きない。
何度目かは分からないが、定期的に生存確認という名目で無意識に彼女を覗き見ている自分に気がついて、わけもわからず不機嫌になる。
彼女はきっと美人だ。
服は泥だらけ。髪だってぐしゃぐしゃ。
いったい何をして、そうなったのか。
でもそれでも、今まで相手をしたどんな夫人よりも綺麗だと思える。
血濡れた自分も言われたことがある。
どんなに汚れても美しいと。
ずっとそんなことはないとそう思ってたが、どうやら間違っていたようだ。
どんなに汚れていても美しいものくらいは分かる。
首からぶらさがった指輪の存在を久しぶりに思い出した。