緋女 ~前編~
城に着いた時、黒豹が城門の前にたたずんでいるのが見えた。
昔から真面目な自分の影。
毛繕いどころか、身じろぎひとつしない。
こちら一点を見つめている。
特に問題もなかったのだろう。そのまますっと近づいた俺とひとつになる。
言葉はいらない___。
彼女に用意されたのは城の北の塔だった。高いから簡単に逃げられないのと、人がいないのとで決めたのだろう。
実際俺も始めて北の塔の螺旋階段を上がった。
部屋に入ってまず彼女の汚ない髪と服をどうにかしようと思って、備え付けの服を見た。
___はっ?
そこにあったのはどれも部屋着。
確かにここに幽閉するようなものなのだが、なにも彼女一人なわけじゃない。
どれも過激すぎる。
どこの誰がこんなチョイスをしたのか知らないが、そいつを殴りたい気分になった。
そうやって見るうちに一つだけあった上等なドレス。
何故か見たことのあるような気がして、首をかしげる。しかし、やはり思い出せない。
とりあえず一番ましなこれは明日の午後、国王陛下サマの謁見に取っておくべきだ。
今は避けておこう。
___だが、それ以外はもうどれも同じように見えてきた頃だった。
一つだけ目を引いたそれ。
もう俺の好みでいいか___。