緋女 ~前編~




「この城からの眺め、お気に召されましたか?」

いつまでも固まったままの彼女にため息をつきそうになるのを抑え、我ながら気持ち悪いほどの甘い声を出す。

 


それにしても
眺めはいいのに


彼女のその綺麗な背中にそう不純なことを考えた。


だか、あくまで好青年で前から彼女を落とすと決めていた。



「わたくしも好きなんですよ、この高いところからの眺めが。同じですね」



彼女が本当に馬鹿でなければこの意味に気づくだろう。




自分も高いところが好きだとそう言えばいい。

俺が連れていってやる。
その欲しいと言った高みにまで。


最初に殺すのは簡単だ。


だが栄光を手にしたそのあと、




奈落の底に落とすのはさぞ気持ちいいはずだ。



彼女がゆっくりと振り返る。

朝日に照らされた彼女の姿に不覚にも一瞬心が奪われた。



白銀の髪の女神は緋色の瞳をこちらに向けて、沈黙する。


こちらも目を外さない。

いや外そうと思ったところで出来なかったかもしれない。
昨日と同じように心臓がうるさい。


___なぜ?
 

彼女の答えが怖いか?

違う。そんなことじゃない。もっと違う何か。

答えを出そうとした時だった。


初めて彼女が私に向けて発した言葉は、残念ながら俺には理解出来なかった。



「…………コスプレ?」


俺の中の何かが白けた。

心臓も通常運転を再開する。

なんだか、凄く投げやりな気分になって、さっきまで好青年キャラを貫こうと思っていたのも忘れて、このやるせなさをぶつけた。





「レヴィア様、アホ面は引っ込めて下さって結構ですよ」




たぶん、これを失望といったのだろう。

十二年分の感情が俺を支配しようとしていた。


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