緋女 ~前編~
「は?」
彼女は何を言われたのか分からないという表情だった。
ここまで馬鹿だとその綺麗な顔も何の役にも立たない観賞用だ。
さっき感じていたのはたぶん緊張以外のなにものでもなかったのだ。
「あっ、すみません。まだ自己紹介してませんでしたか。わたくしはロチス・ケイと申します。今後レヴィア様の世話役兼教育係をやらせて頂きますので、お見知りおきを」
一応名乗っておいたが、さてこれからどうしたものか?
この馬鹿な彼女を前に、どこまで知っていてノコノコと帰ってきたのか、本当に分からなくなってきた。
操るのは簡単だ。
だが、そうしたところで何も面白くない。
目的は達成されるからいいじゃないかと思う心とそれが気に入らないのとで、考えがまとまらない。
「………違う」
「何がですか?」
正直に言うとこの時彼女の話をろくに聞こうとも思ってなかった。
ただ適当に聞き流していた。
「あなた勘違いしてない?」
だから、次の言葉を一瞬聞き流しそうになった。
「___レヴィアじゃない」
理解するにも理解出来ないその言葉を。
何か俺の中できれる。さっきの白けた感覚とはまた違う冷たい感情。
一体何を考えてそんなことを言うのか。
全く予期してなかったこの言葉は何かの罠?
さっきのも全て演技?
俺は都合よく騙されているだけなのか?
そう思ったら駆け引きなんてどうでもよくなった。
演技なら敵わないし、馬鹿なら手なずけるだけ。
「………そうですか。ですが、とぼけたって無駄ですよ」
今の俺に彼女の答えはなんの意味も持たなかった。
けど、言わずには言われない。
「貴女の髪の色、白銀に一筋の金。その髪が貴女がシュティ・レヴィアであることを証明してる。間違いなく貴女は非女の娘だ」
俺を十二年前に奈落の底へ突き落とした奴の娘なんだと、ただそう叫びたくて仕方がなかった。