緋女 ~前編~
シェイド・クラウン、その国王。
彼にとりあえず、私の母との不仲と捨てられたことを簡潔に話す。
聞き終えた彼は何も言わなかった。
それは私への配慮か、ただ信じていないのか。
だが、何もなかったように立ち上がって開かないはずのドアの向こうに消える背中に、ただ興味がなかっただけかと思い直した。
座った一人掛けのソファに深く座ると、ひとつ息を吐く。
ガチャっ
彼の戻った音。それに振り返る代わりに私は言った。
「次はあなたの番じゃない?」
しかしタイミングよくアンティークのカップが目の前に差し出される。
「どうぞ。アールグレイです」
無視されたと思いつつ仕方なく受け取った洒落た飲み物。それと一緒に宙ぶらりんの私の言葉をもて余していると、
「毒見でもしましょうか?」
そう馬鹿にしたお喋りな瞳。
「結構よ」
「そうですか」
私の言葉に頷いて私の目の前に腰かける。
「で、何かおっしゃいましたか?」
その言葉に絶句する。
彼はたぶん私の話に同情したんでも、信じたわけでも、興味がなかったわけでもないんだ。
ただ私の不幸を楽しんでるのだ。
その無表情の下で。
私の中で被害妄想が広がって、また火がつく。
「耳が遠いようね」
気がつけばそう言っていた。
言えば倍にして返すはずのこの毒舌執事に。