緋女 ~前編~
「あー、すみません。意識していないと心優しーい方の言葉しか耳に入ってこないんですよ」
いやー、不思議不思議。
そう続けた彼に私は言い当てる。
「説明する気ないでしょ」
「ありますよ。そんなかっかと怒らずに窓の外の空を見上げてはいかがですか?」
「私が知りたいのは空の色じゃないのよ」
そう言うのに彼はわざとらしくため息をついて見せた。
「わたくしが言ったのは何も空の色ではありませんよ。もちろん、見たいと申されるなら好きなだけ見ていただいても結構ですが」
「だから、ここがどこか知りたいのよっ」
「どうぞご確認ください? あなたの話が本当であればあなたの知りたいことはそこにあるはずです」
「………からかって楽しいかしら?」
「ええ」
悪びれもなくそう頷いて、自分のカップに口づける。
それから、気まぐれに言葉を付け足した。
「でも、嘘は言ってませんよ」