緋女 ~前編~
帰るべきところはどこにもなく、この国で他の誰かさんの名に生きる選択肢が残されていた私。
シュティ・レヴィアとして生きてみるのもいいんじゃないかと、そう景色を見たら思った。
彼の台詞を耳が素通りしたのはそんなことを考えていたから。
聞けばここは異世界だというし、母もいない世界ならどこだって同じ。
綺麗と言ったのは、半分嘘で。
帰るところないし、母もいない世界にきてしまったならもうなんでもいい、という思いを隠してさっきまでの考えを変えるための口実だった。
「ねえ、私この国が気に入ったわ」
振り返ることができず、そのまま窓の綺麗な太陽を見ていた私は醜い。
所詮私はいつも偽者。
今度は名前まで偽物だ。
本物は常に隠して___何も変われない。
「この国のことを教えて?」
思いきって気づかれないように一瞬チラッと振り返ると、見てはいけないものが目に入った。
私の言葉に目を細める彼がそこにいた___。