緋女 ~前編~
罪悪感は胸に刺さって消えない。
でもそれだけだった。
ずっと前からそうやって好かれたいと思いつつ、母をもたくさん騙してきた。
今さら母以外の誰かにその罪を重ねたところで私が少し気まずいだけだ。
「わかりました。ですが、後でもよろしいですか?」
少しして彼がそう言った。
彼が読み取れない声で承知したことにこっそり息を吐く。
「構わないわ」
「ありがとうございます」
やっと振り返る私はその私をじっと見つめる彼と目が合う。
「………なに?」
その視線に堪えられなくなってそう聞くと、彼は長く沈黙した後、言った。
「………なんでもありません」
珍しく歯切れの悪さを感じてドキドキした。
私の醜い部分を見透かしていながら何も言わず、心中で笑っているのかもしれない。
さっきの彼の優しい瞳を裏切る行為に後悔なんてなかったが、私の偽善的な部分が醜い自分を叱咤する。
正直に言えば良かったんだと。
どうせ彼に嫌われたところでどうでもいいのに。
捨てられてもどうにか生きてはいけるのに。
隠してしまったのはたぶん私のクセ。
簡単には消えてくれない。
「レヴィア様」
その声が自分の世界へ入り込んだ私を引き戻す。
「わたくしはあなたのことが…………大嫌いです」
母にも言われなかったその言葉に瞠目した。