緋女 ~前編~
「そう」
なんで泣きそうになるんだろう。
傷ついてないくせに、可哀想な自分を作ろうとしている。
そんな自分が一番嫌い。
嫌われて当然。
だから、母も私を捨てた。
「___ですが」
そう繋がる声に私は肩をびくつかせた。続きがあるとは思ってなかったのだ。
だが母の言葉ではないせいか、ちゃんと聞こうと思った。
涙をこらえて彼の瞳を見つめかえす。
「これ以上嫌いになれないほど嫌いなので、遠慮なくおっしゃって下さいますか?」
「………分かってるわよ」
弱々しくしか出ない声。
彼の心底嫌気がさして面倒だというお喋りな瞳に、私のこらえきれない目頭の熱さ。気づかれたくない私の中に流れた温かな感情。
ああ、敵わない。
私が偽善的なら、彼は偽悪的だ。
気づいているんでしょ?
だったらもっと軽蔑すればいいのに。
もし母が私の世界のうち偽物の土地に住んでいたならば、彼は偽物の土地を越えて本物の土地を跨いだ最初の人。
だがそれを自覚して、私の中の警告音が鳴り響いた。
本物を見せたらいけない___。
「__私もあなたなんか嫌いよ?」
「なぜです?」
そう光の速さで聞いた彼はなぜか怒りの色を見せていた。