緋女 ~前編~
そうして、私はとうとう彼の魔の手にかかったのだった。
___三十分後
鏡の前に座らされた私とその私の髪を弄ぶように触る彼があった。
「レヴィア様、次で最後です」
「………」
もはや一言も答えない私に懲りず、彼はしゃべり続けていた。
「まだ怒っておられます?」
「………」
「わたくしも久々に興奮しました。自分が選んだ服を着させて、ゆっくりと脱がすっ………たまりませんっ」
その台詞に似合わず鏡ごしに見る彼は無表情。そんな台詞を吐くとは思えない綺麗な顔が悲しく感じる私は、もうとっくに怒りは通り越していた。
いっそここまでくると全てがどうでもよくなる。
彼がどさくさに紛れて触った身体をなんとなく見下ろすと彼が私に新たに着せた深紅のドレスが目に入る。
彼はなんだかんだ言いながら手際は良かった。
無駄口さえ叩いていなければ、瞳もその手もただの仕事だという感じで、時折私をからかって楽しんでいただけ。
そんな風に感じた。
下心など一切ないその瞳。逆に私も大概女として終わっていることを再確認したくらいだ。
改めて言うと悲しい気もするけど。
とはいえ、おかげで私は心臓が止まるほどの心地がしたが、またも偽悪的な彼に気づいてしまったわけだ。
結局のところ色々な意味でふてくされて意地を張り、彼を無視し続け、今に至る。
「レヴィア様、こちらへ向いて頂きたいのですが?」
それを知ってか知らずか、悪びれもない彼のお願い。
それは命令に等しい。