緋女 ~前編~



ため息をついて私は降参する。



「分かった」

回転椅子でくるりと振り向くと彼と目があった。

「もう怒ってないんですか?」

「怒るのも労力がいるの。しかも相手が何も変わらないつもりなら無駄よ」



「___無駄な時間はお嫌いですか?」

その何の感情も見えない声が、お喋りな瞳によって色がつく。

この三十分で、時折彼がこちらを試すような言葉を、私に投げかけてくるのはもう分かっていた。



「まあ、無駄な時間をどう有効的に過ごせるかに、よるんじゃないかしら」



努めて落ち着き払った声を出す。

彼のその質問。私はその彼の抜き打ちチェックに今のところ合格できているのか。

まあそれは私には分からないし、分からなくても良い。



でも、私はなぜこんなに彼の質問に合格しようと必死なのか。

これはゆゆしき問題。


今の自分を動かしているのは、間違いなく彼だ。


その否定の仕様がない事実は
母が私を裏切ったのにも関わらず、私が母を裏切っているような罪悪感を芽生えさせる。

気分が一気に暗くなった。
  
その考えを打ち消すように頭をひとつふる。



「最後つて? 化粧?」

「そうです。もっともレヴィア様は素材がいいですから、そうですね………これだけにしましょう」

そう言って円筒状のその小物をどこからか出したのか目の前に出す。



開けたそれは、赤い刃___



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