緋女 ~前編~
ではなく、口紅。
「………王様に会うんだっけ?」
ドレスや髪のアップは全てやってもらったが、口紅は流石に自分でと手を出すと、
「そうです。………これはわたしくしが」
「どんな人?」
「………私に陛下を語ることは許されませんよ」
少し感情がのぞく硬い声だった。
「そう」
特にそこに深入りしようという気は起きなかった。
「ねえ」
「黙っていただけますか?」
私の呼びかけを遮るかのような彼の様子に首をかしげるも大人しく従う。
その私に彼が紅をさしていく。
その優しい手つきにどぎまぎした。
さっきから思っていたが彼は女馴れし過ぎている感がある。
ドレスの着せ方から化粧まで。
それはまるで毎日やっていたみたいな。
本人にその気がなくても、その顔さえ見なければ好意と勘違いする___。
「できました。どうぞ鏡でご確認ください?」