緋女 ~前編~
「………私の面影もないわね」
白銀の髪も緋色の瞳も、まるで私じゃない誰かの顔を借りたみたいだ。
正直、鏡を見ても他人の写真を見るような感覚だった。
「化粧はほぼしてないですが、髪型のせいですかね? 下ろしていた時とは雰囲気が変わります」
「かもね。___とりあえずありがとう」
「ええ、ちゃんと非女の娘らしくなりました。お似合いです」
感情のない声が私を褒める。
「………さっきから思ってたんだけど」
女馴れしてるわよね?
そう聞こうとしたが別の言葉が出た。
「シュティ・レヴィアの母親はお姫様だったの?」
なぜ聞けなかったんだろう?
彼の答えが怖くなったのか?
なぜ?
「いいえ。なぜです?」
「えっ、だって“ヒメ”の娘だって。さっきから私のこと言ってるじゃない」
その言葉に彼が黙る。
鏡越しで見つめ合う私たち。
ふいに彼の方から目をそらした。
「お姫様じゃないですよ。貴女の母親は」
そう何も読み取れない彼の声。
そのゴールドアイに何が浮かんでいるのか。
「女に非ずと書いてヒメと読ませるんです。貴女の母親は非女と呼ばれていました。___皮肉でですが」