緋女 ~前編~
「………そう」
何を聞けばいいのかも分からず、ただうなずく。
それが私の母に今度からなる人?
心底どうでもいい存在だけど、何だか不安を覚えた。
「嫌われてるの?」
そう聞いて振り返った時の彼の表情は、一生忘れられない気がした。
「___それを俺にお前がきくか?」
その憎しみの瞳の一点に彼の苦しみを見つけて思う。
彼は私の母になる人に何をされたんだろう?
だから、___私のことも嫌いなのか。
「………いや、うん。なんかごめん」
「…………………わたしくしも失礼をいたしました」
沈黙が部屋を支配した。
彼の瞳を見るのが怖い。
それでも何か話題を探す。
「あの………」
「はい」
「さっき、本当は私の母になる人のことを聞きたかったんじゃないの」
「気になさっているなら、もう忘れて下さい。わたしくしも非女の娘という言い方はやめま………いえ、やめるよう努力します」
断言しなかった彼はよほどそれに自信がないらしい。
嘘でも言い切ればいいのに。
でも嘘は言いたくなかったから出た言葉に、やはり彼は偽悪的だと思う。
だけど私はこんなことを彼に言わせたかったわけじゃなかった。
「いや、私はさっきの弁解をしたかったわけじゃなくて、ただ………女馴れしてるんだなって言いたかったっていうか」
自分で言っていてもわけが分からない。言葉の途中でうつむく。
自分で自分が嫌になった。
そして落とした目線の先に、彼が血が滲むほど手を握りしめていることに気づいたからだ。
ふと自嘲するように口の端が片方つりあがるのを感じた。
私が何を言ってもこの人を苦しめるだけなんだ___。