緋女 ~前編~
「………」
私は黙ることにした。
彼が私に答えを求める以外はしゃべったりしない。
その代わり、私はカーペットに落ちる血を増やすことがないように、床に脱ぎ捨てられてあった白いワンピースを手に取って裂いた。
「なにをっ?」
純粋に驚く彼は握りしめる手を忘れて、少しだけ開いた手。
それを私は見逃さない。
「じっとして」
彼の手を無理矢理取ると、包帯がわりにそれで手を包み込む。
勉強も料理も出来たが、手先だけは不器用な私。
あとでちゃんと診てもらって、と言葉を紡ごうとしてやめた。
そんなの彼だって私なんかに言われなくても分かってる。
だから代わりに微笑んで手を離した。
良かった。
再び出会った瞳は理解に苦しむ不思議なものを見ているかのよう。
それでも、あの憎しみを直接受けるよりは全然いい。
「レヴィア様」
その呼びかけにも私は首をかしげて見せただけ。
その様子に彼にしては珍しく感情のある声で言うのだ。
「___ありがとうございます」
胸が熱くなる感覚を、私は無理矢理になかったことにした。
「ですが、せっかくある唇です。動かしたらいかがです?」
前言撤回。
___胸が熱くなるなんて嘘だ。