緋女 ~前編~
ふと枕元に目を向けた。いつもその位置に目覚まし時計があるのだ。
しかし、今日は違った。
そして代わりにあった別のもの___。
男の顔があった。
知らない男の顔が。
私は慌ててベットから抜け出す。
我ながら悲鳴を上げなかったことに驚きつつ、それを褒めた。
男が起きる気配はない。
落ち着いてよく見ると、男は何も一緒に横たわっていたわけではなかった。
ベット脇の丸椅子に腰かけて、こちらに頭を預けて眠っているだけ。
だから、布団が重かったのだろう。
とりあえず、いつの間にか眠ってしまったかの様子の男にほっとする。
だが、知らない男には変わりない。
そう。
私の朝にこんなの絶対にあり得ない。
だって私のいつもの朝は
目覚まし時計が鳴って、着替えて、キッチンに向かって………
そこまで考え、停止した。