緋女 ~前編~
「えっ………」
突然ぐいっと引っ張られた感覚がして、その次に見た光景がさっきと違ったら、それはなんというのだろう?
「大丈夫ですか?」
そう耳元で声がして、ピクリと身体が反応する。
それに気がついた彼が何の遠慮もなしに聞いてくれる___。
「耳弱いんですか?」
「そっそんなことないわ…………たぶん」
彼と目があったことで最後に付け足された言葉はいいように解釈される。
「分かりました。覚えておきましょう」
さも当然のように耳元でそう言う彼は確信犯。
心なしか温度の上がる頬を自覚して、バレないようにと願う。
「さあ、このドアの先であなたを陛下が待っています」
「うん」
「陛下にも私と同じように言われたり質問されたりするかもしれませんが、貴女は正直に話していただくだけで結構です」
「うん」
「………」
今更ながら、一国の王様に対面することに多少の緊張感が私の中に生まれていた。
強ばる顔を彼がそっと覗いたのも私は知らない。
ただ私は繋がれたままの手が、一瞬だがぎゅっと握られたのを感じた。
驚いて見上げたが彼はそっぽを向いていた。
照れてるの?
それともたまたま強く握ってしまっただけ?
「陛下、ケイでございます。シュティ・レヴィア様をお連れしました」
彼が空いてる方の手でノックする。
何を考えているのか、ドアが開くギリギリまで彼は私の手をずっと握っていてくれた。