緋女 ~前編~
新しい生活
定められた婚約者との逃走の果てに
一昨日ケイが呼び出された後、実は僕も国王陛下に呼ばれていた。
ただし、僕はこの話を全く予期していない。
『えっ』
この通り間抜けな声が僕の口から出た。
それからこの自分のマヌケさに慌てて陛下の顔をうかがう。
その瞳が失望していないか、と。
だが、完璧に無表情と思える陛下に少しして諦めた。
どうしてそんな表情を作れるのだろうか。
経験の差なのか、と考えてやめた。ケイの無表情が頭に浮かんだからだ。
僕とケイは一つしか歳が変わらない。
あと一年でケイみたいになる自分を思い描いてみるけど、まるで現実的ではなかった。
『もう一度言う』
黙り込んでしまった僕に息を吐くと陛下はそう言った。
『シュティ・レヴィアが帰れば、お前が彼女を手懐けるんだ』
非女の娘を___?
一年後ケイになっているのと同じくらい現実的ではないその命令に、どう答えるべきか迷った。
そんなこと無理だという叫びと失望されたくないという気持ちが混在して、返答できずにいると、
『ケイには彼女の世話役と教育係をかってもらった』
そう言う陛下。
だからさっきケイがいたのか、と心の中で呟く。
しかし、ではケイに任せてしまえばいいじゃないかと思ってしまった。
僕は必要ない。
自分で思ったことなのに悲しくなってくる。
でも、なにかと僕とケイを比べてくる陛下が僕は嫌だった。
敵うはずがないのに。
『お前には彼女の婚約者になってもらう。手懐けられれば、正式に結婚することを許そう』
陛下はそう言うけど、何を今さら期待されているのか僕にはさっぱり分からない。
___僕はただ、突然消えたあの人に早く帰ってきて欲しかった。