緋女 ~前編~
その言葉に衝撃を受けたのは僕だけではなかったらしく、しばらくは何も聞こえてこなかった。
「………陛下、少しよろしいでしょうか?」
その遠慮がちに発せられた声。
国王とシュティ・レヴィアを前に控えていたであろうケイが、沈黙を破ったのだろう。
「許そう。なんだ?」
「わたくしも先程聞いたので陛下にお伝えできなかったのですが」
そう前置きをした上でケイがしゃべり出す。
相変わらず完璧にこなす彼の無表情な顔を思い浮かべ、その続きを僕も聞いた。
「レヴィア様はこちらのことを一切知らされずに、あちらで育ったそうなのです」
えっ?
僕は自分の耳を疑った。
だって、非女が娘をここに還すのに何も教えないわけがない。
非女には娘を還してまで、彼女にさせたいことがあるのだろうし、何も知らなければいいように利用され尽くされるだけだ。
「………証拠は?」
「ありません。レヴィア様自身がそうおっしゃっているだけです」
ケイのこの言葉にそうかと呟く国王陛下。
そして、
「………だから君は自分がシュティ・レヴィアじゃないと言うのか?」
そうシュティ・レヴィアに問うのが聞こえた。
「はい」
何の迷いもないはっきりとした声が返る。
その凛とした響きにますます自信を無くす。
「ですが、私もシュティ・レヴィアとして生きてみたいと思っています」
ほら。やっはり___
「それでよろしければ、私にシュティ・レヴィアの名をいただけませんか?」
僕が相手できるような女じゃない。