緋女 ~前編~
「………君の言い分は分かった。ケイ、少し話したい。いいか?」
「承知しました」
ケイがそう答えたが、彼女の返事は聞こえなかった。
しかし、そんなことはどうでもいい。
次の言葉を予感した僕の死ぬほど暴れている心臓が、そう叫んでいる。
無理だ___。
無理なんだ。
引き受けてごめんなさい。でも、僕にはできない。断る勇気がなかっただけなんだ。
そして、断る勇気もないこの僕にシュティ・レヴィアの婚約者など到底つとまらない。
そうやって、僕のなかで負の言葉が繰り返される。
「君に城を案内する者をひとり用意しておいた。隣の部屋にもう待機してもらっている」
「入ってこい」
残念なことに、隣の部屋はここ一つしかないし、この部屋にいるのも僕ひとりだった。
今すぐ逃げ出したいが、ドアはひとつ。
隣の部屋と繋がったドアだけだ。
もう、逃げられない__。