緋女 ~前編~
「はっ?」
彼女の純粋な驚きも僕を悲しくさせる。
婚約って事実に驚いているのを頭では分かっていても、自分のことが否定されている気分になった。
「婚約って、あの婚約ですよね」
「うっ。あー、そう、そうだよ」
でも僕は彼女が絶対断ると思った。
だから、次の彼女の言葉を待ってしまった。
「それがここで暮らす条件なんですか?」
「………」
彼女の言葉に絶句する。
なんと答えればいいか分からなかった。
僕の立場から言えばそうだと言いたい。
けど、そのあっけらかんな言い方には頷き難かった。
「そうですね。レヴィア様、婚約は条件です」
沈黙の後の同じくらいあっけらかんな答え。
その言葉がケイの口から出たことに僕は驚いて、否定も肯定もできずにいた。
だが動揺したのは僕だけのようで、ケイの言葉にも彼女は冷静にみえた。
「ケイに聞いたんじゃないわ。私はこの子に聞いてるの」
そしてその言葉に、
僕は初めてケイの動揺した顔を見たのだ___。