緋女 ~前編~
……私はもう部屋に籠って出てこない母の朝食を作ることはないんじゃなかったか。
何とも言えない気持ちが溢れる。
だけど溢れたのは涙じゃなくて、自嘲の笑み。
「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ」
まだ悪い夢の続きを見ているだけなんだ。
だってそうでなくちゃいけないでしょう?
なんのための十七年間か分からないじゃない。
でも、分かってる。
嘘じゃない。
何を間違えても、これだけは間違えたことがない。
この残酷なぬくもりは確実に朝を告げている。
___私の大嫌いな朝を。
違うのは、いつもの朝はもう来ないってことだけ。