緋女 ~前編~
「だって、本人同士の問題じゃない?」
再び沈黙が落ちたので、彼女が続ける。
「私は別にいいわ。けど、貴方はどうなの?」
こちらをまっすぐ見つける緋色の瞳。
その強い色に胸がこれ以上ないほど騒ぐ。
僕もいいって言えば終わる。なのに、なぜだか言葉が出ない。
この瞳にこのまま答えたらバレる気がした。
僕の言われたことしかできず、できないことも断れないような臆病な部分をさらす。
そんな気がした。
「我が息子は既に同意している」
その様子を黙って見ていた父は口を開きそう言った。
「だから、私はこの子に聞いてるの。国王だかなんだか知らないけど、私はもう誰かに媚びたりしないし、本気になったりしないわ。………それでもいい?」
最後の問は僕へのものだと分かっていた。
聞きたいことはたくさんあった。
何があったかとか、彼女は本当にいいと思っているのかとか、僕と婚約することに本当に何も思ってないのかとか。
でも、聞けなかった。
いつもいつも大事なところで声がでない。
決められた道にうなずくだけ。
そう今回もうなずけば終わった。
けどいつもとは違う。
そう
全てが。
「おすまし人形」
それは沈黙に耐えきれなくなった彼女が、臆病な僕に吐いた言葉だった。