緋女 ~前編~
「ここです」
庭の入口に立った僕は後ろを振り返る。
ここまで来るまでに何人もの人とすれ違った。
幾人かがこちらを振り返りみたり、二度見したりするのを感じた。
曲がりなりとも王子である僕と白銀の髪の彼女がいれば、嫌でも目立って落ち着かなかった。そのお陰で廊下を抜けるのは少し時間がかかってしまったのだ。
緋色のドレスに身を包む彼女は苦笑いを浮かべた。
「意外と近くて良かった」
「そうですか? すみません、僕が魔法で移動できたら良かったんですが、あいにくもともと魔力に弱いんです、僕」
この告白に彼女は複雑な顔でただ小さくうなずいた。
「そう………。よし、じゃあ庭でお話しましょう」
「分かりました。こっちです」
招き入れた彼女の横を歩く。
「綺麗なところ。ここにはよく来るの?」
不意に彼女が聞いてきた。
「えっと、はい。この先に行けば椅子もあります。もし良かったら座ってお話を」
「いいわね。私も少し疲れたから」
彼女が同意したのを受けて、しばらく歩いて僕はそれを見つけた。
「どうぞ」
いそいそと先に彼女の椅子をひいてみせた僕が言う。
それに素直に従って座った彼女の前に僕も腰かけた。
「あのっ、それで僕に話ってなんでしょう………?」
「うん、今から話すね。でもその前に、敬語いらないから、私には」
「えっ? でも___」
さっきも言われたけど、僕にはいきなり過ぎる展開だった。何か言わなければと思ったが、言葉になる前に彼女が言った。
「あと、とりあえず私のことはレヴィアってよんで欲しい」