緋女 ~前編~
「えっ、でも___」
なおも食い下がる僕を見てくすりとシュティ・レヴィアは笑った。
庭に咲いたどの花よりも美しい___。
「そういう時だけは意思表示するのね?」
「………」
痛いところを突いてくる。
さすが非女の娘というべきか。
僕という人を完全に理解するような言い方は図星だからわけもなく反抗したくなった。
でも、僕は何も言わなかった。
そして彼女はそれも予想していたかのように、
「そうね。意地悪な質問だった」
と、僕から一度も目を外さないで言う。
彼女の大人なのか子どもなのかよくわからない言動に振り回される僕。
「………ねぇ、私の友達になってくれない?」
ほら、またそんなことを言う___。
分かってた。
だけど、もうどこかで期待してた自分がいたんだ。
「………やっぱり、僕と婚約なんて嫌ですよね」
彼女が僕のこと少しでも好きだと思ってくれてることを、僕は既にどこかで期待してた。
「は?」
そう苦笑いした僕に、あり得ないという顔でこちらを見る彼女。
僕、また何か勘に触ることしました?
自分を嘲笑うように心の中で呟いた言葉は、全てが面倒になってのことだった。
どうせ僕は誰にも必要とされない。
誰にも好きになってもらえない。
目頭が自然と熱くなってきた。
「………なんか勘違いしてない?」
そうです、勘違いしました。
もうしません。勘違いなんてしません。
心の中でそう唱える。
そういうことにはもう慣れていたからなんの違和感も感じなかった。
「さっき言ったよね。婚約しても私はいいって」
その彼女の言葉でさえ、僕に届かない。
「………ちょっと」
僕らがテーブルをはさんで座った椅子。
彼女が勢いよく立ち上がることでその椅子が倒れた。
彼女はテーブルにそのまま乗り出すようにして、両手で僕の頬を包み込む。
「もう一回言うからちゃんと聞いて」
何が起こっているんだろう?
もう忘れてしまっていた人のぬくもり。
こらえていた涙が彼女の手を濡らした___。
「私は貴方と名目上の関係よりも、普通の関係もきちんと結びたいの。………駄目? 私が貴方の唯一の友達になってはいけない?」
頭が混乱して、答えようにもまともに答えられなかった。
「だっ駄目ってわけじゃなくて…その…僕なんか…いいんですか?」
「うん、私が言ったの。友達になってって」
「そっ、それは分かってるんですけど……それってその…」
「僕のことが嫌いだからですよねって?」
自分でそう言ってのけた彼女。
「そうね。貴方を見てるとつい昨日までの私を見てるようで。友達いないんだろうし、だから親に認めてもらいたくて必死なんだろうし」
遠い目に僕は映っていない。
「でも、今だったら思うの。愛されてないって思ったのは、自分が本当の自分を見せてないからっていうのもあるんじゃないかって」
“偽の綺麗な自分を愛してもらおうとしても、空しいだけなのかもしれない”
「だから、友達になって」
言葉の足りない彼女は最後にこう付け足す。
「私なら貴方を全部分かってあげられるから」
その言葉に瞠目した。
初めてもらった言葉。
それなのにそれでも満足してない自分がいることに気づいて___。