緋女 ~前編~
「それはそうと、良かったのか?」
そうタイミング良く国王が言わなければ、どうなっていただろう。
この馬鹿な王は本当に馬鹿なのか?
いつもはその疑問を無視できるが、今日は疑いがますます深まっただけだった。
「と、言いますと?」
「シュティ・レヴィアが息子と出ていっただろ?」
「あー、それには心配は及びません。彼女には影をつけています」
「そうか。さすがに抜かりないな」
そう俺の答えにひとつうなずく。
「お前にも言っておこう」
それはこの人生最大の賭けのルールだった。
「彼女を手懐けることができれば勝ちだ」
そして一呼吸分の間の後、さらにこう続けた。
「彼女に本気になれば負けだ」
馬鹿な王だと思っていたその人の言葉に、愕然とした。
とっくの昔にバレてる………?
「そんな顔をするな。___だから長い間二人を比べさせてきたんだ」
「………いつから?」
「出会ったときから。すぐ分かった」
「___どうして放っておいたのですか」
そう聞いて後悔する。
答えなんか決まっていた。
この馬鹿な国王のことだから___
「俺にも機会をくれるのか?」
きっとそういうことなのだ。
「………好きに解釈していいぞ。」
国王は試すように言うが、知ったことじゃない。
「その言葉、取り消し不可ですよ」
「勿論だ」
国王陛下が何を思ったか即答する。
「では、わたくしも本気でやらせていただきますよ」
そう言った俺の手のひら。
彼女に巻いてもらった手それは、また血が滲んでいた。