緋女 ~前編~
鳥籠の中、彼らの二重生活。
やってしまった。
その思いだけが残る。
ついついケイに腹が立って勝手に適当な文句をつけて、この子と部屋を飛び出してきてしまった。
“君には突然で申し訳ないがこの息子と婚約して欲しい”
その言葉を理解するのには少し時間がかかった。
だが、その後に私はきちんと聞いた。
“それがここで暮らす条件なんですか?”
なんとも言えない間の後にケイが答えた。
“そうですね。レヴィア様、婚約は条件です“
そのさも当然のように言うケイに私はどうしようもなく裏切られた気分になった。
またそうやって期待させておいて何も言わず、私の前から消えていくんだ___。
そう
私の本当の領域に片足を突っ込んでいたケイを、心の中で無意識に許していたであろう私にとってそれは酷かった。
だから私は無理矢理ケイを突き放した。
“ケイに聞いたんじゃないわ。私はこの子に聞いてるの”
その言葉に彼が動揺したのは王子だかの瞳越しでも分かった。
でも、仕方がなかった。
そうしなければ私は昨日の二の舞になる。
私は昨日何も学習しなかったわけじゃない。
大切な人さえ作らなければ、私はまた捨てられることはないんだと、そう学んだはずだった。
そして好都合にも母以外大切な人などいなかった。
なのに、彼の言葉に動揺した私はもう過ちを繰り返してしまっていた。
今なら間に合う。
………彼なんかどうだっていいじゃないか。