緋女 ~前編~
“………レヴィア様、お言葉が過ぎます”
驚きから立ち直っていたケイは感情のない声で言った。
この言葉だけで振り回される私は大概もう手遅れか。
“なによ? 貴女は正直に話していただくだけで結構ですって言ったのはケイでしょう?”
認めたくない事実を隠すように彼に当たる。
“人を傷つけていいと言ったつもりはありませんが”
その冷静な言葉に私は明らかにひるんだ。
“………別に。本当のこと言っただけ”
苦虫を噛んだような顔で、言い訳するように呟く。
“本当だろうと言ってはいけないことがあります。お分かりになりますよね?”
ひるむ私に追い討ちをかけるケイ。
“………そんなの知らないわよ”
そう答えて、私はうつむいて王子の方へ歩きはじめる。
そして王子の腕を引いて言った。
“一緒に来て”
”えっ?”
有無を言わせず、私は王子を引きずるようにドアへと歩く。
振りほどくことも、ついていくこともしない王子。
“レヴィア様っ、お待ちを”
初めて聞く焦ったケイの声。
それを聞きつつ、内心嬉しく思った自分がいるのが分かった。
今日が昨日と同じなんてことは全くない。
だって置いてかれたのは私じゃない。ケイだ。
そしてケイだって私を呼び止めた。
もしかしたら、という淡い期待が無意識に高まっていたのを私は知らない___。