緋女 ~前編~
そして成り行きでなんとなく友達になった私と王子様。
色々臭い台詞を吐いた気がするけど、本当のところは偽りの婚約も嫌になるくらいに私を知ってもらおうと思った。
だって、この王子様を見てると私がみじめになる。
少し前の私みたいで。
また来る未来の姿みたいで。
きっと、今は友達っていいなって思っても私と似てる王子だから、同じ結論にたどり着くはずだ。
傷を舐めあってもどうにもならない。心は埋まらない。
そう気がつくんだ。
「ねぇ、王子は名前なんて言うの?」
友達になってという言葉に複雑な顔で一応うなずいた彼にそう聞くと、なぜか赤くなった。
「………名前は今は教えられない…です」
その呟きよりも小さい声。
「えっ、そうなの?」
思ったよりうんくさそうな声が出た。
「………家族にしか教えられないことになっていて」
「あっそうなんだ。王子様っていうのも大変なのね」
今は?なんて野暮な質問はしない。
私はこの人の婚約者で、将来家族になるはずの人なのだ。
「でも、僕は何にもできないし、大変なことなんて………」
あー、でも私と全く違うのは完璧じゃない自分に甘んじている点だった。
私はずっと努力してきた。
成績だっていつも上位だったし、家のことは全部私がやっていた。
誰に褒められなくたって自分で自分を褒めて、それがあなたの普通で努力してないんでしょっていう周りの目を無視し続けた日々。
そこに駄目な自分に甘んじている事実はどこにもない。
だから、この王子の気持ちの全てを理解するのは本当は不可能だ。
なぜ、努力しないのか。
それでいてうじうじしている理由が見つからない。
正直、誰かに合わせるということに無縁な私は、この王子に共感してあげるには酷だった。
ああ、疲れる………。