緋女 ~前編~

何か話題を変えようと思った。

しかし、何を喋ろう?

その時私の目に辺りの夕日に染まる花たちが映った。

そういえば最初に来た時も思ったけど、見たことのない花がたくさんある。

「レヴィア?」

遠慮がちにそう呼びかけた王子に視線を戻すと、

「王子って、花に詳しい?」

「えっ? なっなんで…ですか?」

「いや、なんとなくだけど。さっきこの庭には誰も来ないって言ってたじゃない?でも、それじゃあ誰が手入れしてるのかなって思って。………もしかして王子が全部やったのかと思ったんだけど」

その言葉に王子はうつむく。

「何にもできないので、これくらいはやってみようかなって………。すみません、女々しいですよね」

努力の方向が王子としては間違えている気がするけど、確かにこの庭を作りあげるのは労力がいる。

「___私も一軒家に私一人みたいなものだったから、庭の手入れとかしてたの。だからそれなりに花とか知ってるはずなんだけど、ここのは知らないものばっかり」

なんだか妙に微笑ましい気持ちになっていた。

もしかしたら

王子だけではなく私も努力の方向を間違ってたのかもしれない。

親は子どもが頭いいからって好きになるわけじゃない。

そんなこと分かりきっていたじゃないか。

なのに

王子は無駄なことをしてることに気づいていたけど、私は気づかないふりをしていた。

私の方がずっともしかしたら努力してると思い上がっていただけなのかもしれない。

そう思ったら、自然とこのムカムカした思いもおさまり、変わりに温かな感情が自分に流れたのだ。

「ねぇ、この花の名前教えて」

その私の穏やかな笑顔。

王子は花の名前を教えてはくれたが、私の言葉に赤くなった理由は教えてくれなかった。

そしてその夕暮れを影は見守る。
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