緋女 ~前編~
「それってどういう___」
「さぁ、もうおやすみになられて下さい。明日の朝は早いですよ」
私の質問を遮るようにそう言ったケイ。
なんとなく聞いてはいけないと言われたような気分だ。
さっき、とことん追求してみる努力をしようと決意したばかりなのに、私は自己防衛のために黙ってしまった。
変われると思ったのは一瞬だった。
やっぱり駄目だ。
彼と瞳が合っているうちは聞けた。でも、瞳が合ってないと聞く意味もないくらい彼のことがまるで分からない。
「早いって?」
代わりにどうでもいい質問をした。
「明日の朝ご説明します。今日はおやすみになって下さい」
「………分かった。けど、ケイは?」
「わたくしがなんですか?」
「ケイは寝るの?」
「………まあ、そのうち」
珍しく歯切れなのない答え。
「じゃあ、私もそのうちってことで」
そう言った私に彼が視線を合わせてきた。
「………」
彼は何も言わない。
けど、戸惑い複雑な気持ちをした瞳は、何を言えばいいか迷っているように見える。
「………なに?」
そう問うと視線は外された。
「疲れてないんですか?」
「分からない」
これは正直な答えだった。
今日一日色んなことがあって疲れているはずなのだ。けど全く眠くない。
こんなこと初めてだった。
あんなに寝る時間が、当然のこと独りになれる時間が待ち遠しくなかったことは一度もなかったのに。
「___寝ていただかないと私が困るんですよ」
しばらくしてから彼がぽつりと言った。
「えっ?」
何か不都合でもあったっけ?
だって、寝る時間って独りの時間であって誰かに迷惑かけることもないでしょ?
そういう目線を送ると、彼は目も合わせてくれないのにそれに気がついたようにため息をつく。
「………分かりました。とりあえず、着替えて下さい。どうせ、そのドレスのままでは寝れません。来てください、貴女に隣の部屋を案内しましょう」