緋女 ~前編~
鏡の池、もう一人の自分。
「起きて下さい、レヴィア様」
その声に飛び上がる私。
この世界での二日目が始まろうとしていた。
だが新しい朝日はまだ嫌いじゃない。
「………耳元で囁くのやめて」
とりあえずその声の人物を認めて私はため息をついた。
「その方がレヴィア様が起きやすいでしょう?」
そうケイは感情のこもらない言うが、寝て起きても相変わらず瞳は正直でよろしい。
「からかわないでって言ってるでしょ」
だが、もうすでに私から離れて隣の部屋に歩いていく。昨日は分からなかったけど、歩き方が綺麗だ。いっそ、優雅と言うべきか。
仕方なくソファに腰をかけて彼を待っている。
「ねぇ、今日何するのかそろそろ教えて」
部屋から帰ったケイにそう言うが、彼は黙って手にしていたカップを差し出す。
「どうぞ」
そのデジャブに私はこっそりまたため息をついた。途中で彼がこちらをじっと見ながら、向かえに座っているのに気がついて、バレていませんようにと願いつつ、そのカップを慌てて飲む。
「んっ、昨日と違う?」
慌ててたから気がつかなかったが、色も違う。
「ええ、一通り飲んで頂いてから一番好みなものをお出ししようかと」
「そう、なんだ」
実は自分が一番好きなものは分かってる。
けど、彼が作ってくれるというなら全部飲んでみたいと思う。
昨日の夜、ケイに隣の部屋を案内してもらった時、服の山とその向こうにあるキッチンを見せてもらった。
その向こうにトイレとお風呂もある。
なぜ、城の塔なのにこんなに部屋があるんだろうと、彼に訊ねると、何を馬鹿なことを言っているのかという瞳をされて一言。
『魔法ですよ、レヴィア様』
なるほど、部屋も大きくなるというわけか。
ますます便利なものだ、魔法というものは。
「で、先程何かおっしゃりましたか?」
彼がそう面白おかしいとでも言うような瞳でそういうので、このデジャブはわざとかと疑った。
「ねぇ、そういうのっておもしろい?」
少し不機嫌そうに言って見せた私に彼が答える。
「なんのことでしょう?」
「………もういいわ。今日はなにするの?」
「ああ、そうでした。でも、その前にお腹すいてませんか?」
「___まあ、昨日作ってくれた夜食だけじゃ、今日は持たない」
「ですよね」
彼が気楽に答える。
なんの心配もしているように見えないが、昨日は一通り部屋を案内した後、お腹が空いたという私に、黙ってシチューを作ってくれた。
優しい味は彼の魔法の味。
長らく自分で作ったものしか食べてこなかったから、単純に嬉しかった。
私が料理できることも彼には黙っておくことにした。
そんなこんなで、またその魔法で何か作ってくれるのかと彼の言葉に期待した私。
「では、着替えましょうか」
とても馬鹿だ。
というか、調子に乗りすぎてたかも。