緋女 ~前編~
「なっ」
絶対このデジャブはわざとだと確信した私。
「今日はこれを」
だが、差し出されたのはシンプルなチェニック。
それに拍子抜けして思わず彼を見て首をかしげる。
「なんですか? ………ちゃんと着ていて下さいよ」
そんな私から目を外したケイは、無感情に言った。私の中でおかしな混乱が起きているのを知ってか知らずか、空になったカップを持って部屋を出ていく。
えっ………。
なんだろう、この取り残された感覚。
それは母に捨てられた時に酷似していて。
とても苦しくて切ない。
「………」
考えてもしょうがないので、ボーッとしながら着替えようと昨日の晩に用意してあったふつうのパジャマを脱ぐ。
あっ、下着がない。
困っていると、突然ドアが開いた。
おたがい目が合った___と、そう思った瞬間勢いよく閉められたドア。
いや、閉められても困るんですけど。
だいたい、昨日は堂々着替えさせたクセに。
わけのわからない怒りが私を支配した。
「ちょっと、開けなさいよ」
気がついた時には私には開けられないドアに向かってそう叫んでいた。