緋女 ~前編~
『服、着てませんよね』
「ええ、だから開けなさいって言ってるの。なに? 新手のいじめか何かなの? 貴方は楽しくても私は何も楽しくないんだけど」
『何をおっしゃているのですか?』
ため息まじりの彼の声に、本気で気がついていないのかと私は思い直すことにした。
その方が私の心が楽だ。
「………上の下着。ないの?」
ぶっきらぼうにそう聞くと、ドアの向こうで小さく声が上がった。
『あっ………』
まるで大失敗を犯したような明らかな絶望的な声に、私は理由もなく泣きたい気持ちになった。
女慣れしてるんでしょ。気づきなさいよ。
恨んでるのは知っていても優しい彼に、どうしたって私は今までとは違う感情を抱いている。
それが本当に母に思い焦がれる飢えた心に似ていて、昨日はケイを兄と認定してしまった。
だからかな?
こうやって距離を感じると苦しくて。
悪くないのにこうやって八つ当たりしたくなっている。
馬鹿だ。
もう大事な人なんて作らないって決めたのに。
『………レヴィア様、とりあえず下着ここに置いて置くので取りに来て下さい。私はお風呂の方にいますから、終わったら呼んで下さい』
しばらくしてそう声がした。
「___分かった」
そう返してあげると、ドアの向こうの気配が奥へ消えていく。
私はあっけなく開いてしまったドアの前に置かれた下着に雫が落ちるのを無視して、それを手に取った。
やっぱり朝は嫌いだ___。
無性にここから逃げて王子に会いたくなった。
独りじゃないと確認したくて。