緋女 ~前編~
服まで着替え終わった頃には落ち着いた。
大きく息を吸って吐く。吸う、
「もういいわ」
吐く。
どうでもいい。
何度もそう繰り返せばその通りに思えてきた。私も大概自分を誤魔化すのに慣れている。
母の時と同じようにすぐこのどうしようもない気持ちの整理もつくはずだ。
だって、母に捨てられたのも一昨日のことなのにもうどうでもよくなっている。
私があれほど執着していたものって所詮そんなもの。
「ちゃんと着れてますね」
奥から出てきたケイが言う。
その言葉に言いたいことはたくさんあった。でもただムカッときて一言言ったように見せたい私は、不機嫌そうに彼に言う。
「子供じゃないのよ」
「………分かってますよ」
冗談めかして返してくるかと思ったが、妙な間の後答えた彼に首をかしげる。
何かおかしい?
彼に違和感を感じつつ何も言えずにいると、彼が手を差し出した。
「なっなに?」
なぜか動揺しまくって挙動不審な私に彼がため息をつく。
「出かけますよ」
「出かける………?」
一瞬、じゃあこの手は? と思ったが、言葉に理解が追い付いた。
「また、飛ぶんだ?」
「はい。まずは朝食を食べに行きましょうか」
彼の手作り(?)の料理じゃないことに少し残念な気持ちの私は気取られないように願いつつ、彼にうなずいて見せた。
「どんなものが出るのか楽しみね」
その時の私は城内の食事をイメージして、彼に手を重ねる。………冷たい。そっと息をつく。
だが、それもつかの間。
飛んで次の瞬間、私は驚いて言葉が出なかった___。
ケイの馬鹿にした瞳が私を見下ろす。
「どうぞお好きなものをお楽しみ下さい、レヴィア様?」