僕らはきっと、あの光差す場所へ




 緑が生い茂る坂道を下ると、一面に田んぼが広がっている。僕らが通う長坂高校はそういう山の上にあって、僕らが住んでいるここはそんな田舎の町だ。山に囲まれて、ほとんどの面積を田んぼが占めている。

市町村でいえば真ん中の町にあたるけれど、限りなく村に近いんだと思う。○○県長坂町、小学校が三つに中学校と高校がひとつずつ。あの高校のほとんどが昔からの知り合いだ。



「春瀬、やればできるじゃん!」

「ちょ、うるさ、しゃべるなって、」

「え、うわ、」



後ろで橘が叫んだせいで、順調に進んでいた僕の体の重心が崩れてぐらりと自転車が揺れる。視界がいきなりぐるりと一回転。それと同時に、田んぼのあぜ道に転がる小石に車輪がつまずいて、僕らは自転車ごと地面へと倒れこんだ。



「いったあ……」



ザラリとした乾いた土の感触。土に紛れる小石と雑草。水と草のようなにおい。

倒れこんだ場所がよかったのか、右足以外に痛みは感じなかった。隣の橘もなんとか元気そうで、ゆっくり上半身を起こして土をはらっている。


 僕はそのまま仰向けになって、かわいた土の上に自分の身を任せた。

青くて高い空。ちょうど電線の通っていないこの場所は空を見上げるのに最適で、喉が渇いたときのソーダ水みたいに僕の心を満たしていくのを感じる。人が太陽を描くとき、大抵は赤をつかうけれど、実際に見上げる太陽の光は白色だ。

まぶしさに手を太陽にかざす。青い空がすこしだけ暗い色になる。遠くから聞こえるセミの声と乾いた土のにおい。ああ、夏だなあと思う。



「なあに、それ」



 橘がそう言って、僕のよこに躊躇いもなく並び出す。あぜ道の真ん中、ふたりして仰向けになっているこの光景は、きっと周りから見たらおかしなものに違いない。



「まぶしっ! あ、ねえ。手をかざすとさ、視界が少し暗くなるよね」



 そう言った橘は僕の真似をして開いた手を真上にあげていて、小麦色に焼けた綺麗な肌に手形の影がくっきりと浮かび上がっていた。

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