僕らはきっと、あの光差す場所へ
「……光が遮断されるから」
「んー、そうかあ。こうしてみると、太陽ってすごい光なんだねえ」
「そりゃあそうだろ」
「……どうして私たち人間は、この白い光を赤色に描くのかなあ」
まっすぐ空を見上げている橘が、ポツリとそんなことをつぶやいた。それは、さっき僕が考えたこととまるっきり同じこと。
僕が見ている景色を、他の人間が同じように見ている。それは、当たり前のようで全然当たり前じゃないことだ。僕が見ている青色と他人が見る青色はきっと随分と違った色だろう。僕が綺麗だと感じるものが他人にとっては不快なものかもしれないし、よかれと思ってやったことが人を傷つけることだってある。
それでも、今、僕と橘は同じ空を見上げていて、同じように少し暗くなった視界の中、白い太陽の光をしっかりと感じている。
「……ていうか、いいの。汚れるよ」
「え? ああ、春瀬のカーディガン? ごめんごめん、なんか面白そうなことしてるなあって思ったから真似したくなっちゃって」
「……そういうことじゃないけど」
ジンジンと痛んでいた右足の痛みも段々と弱まってきていた。となりの橘は僕の言葉に返事をせずにまた空を見上げている。
学校の目の前だ。無断で学校を抜けてきた僕らがこんなに呑気にしている場合じゃないのはわかっているし、僕と橘はこんな風に一緒に同じ空を見上げるような関係じゃない。
消えたクラスメイトを一緒に捜しにいく、ただそれだけの関係。
じんわりと肌に浮かび上がる汗に鬱陶しさを感じつつ、突き刺さるような太陽の光が痛いようでひどく眩しかった。全身の力を土の上に預けているからか体は妙に軽くて、熱っぽい。
隣を見ると、橘が真上に伸ばした手のひらをゆっくりと握っている。まるでその手の先にある太陽を捕まえるみたいに、彼女の長くて細い指が、ゆるやかな弧を描きながら手のひらの中に収まっていった。