僕らはきっと、あの光差す場所へ
◇
再び自転車にまたがると、僕のカーディガンをきちんと腰に巻いた橘が慣れた手つきで荷台へと飛び乗った。後ろに重さがかかって重心を見失いそうになった僕が思わず「重い」とつぶやくと、橘は「ほんと春瀬ってデリカシーないよね」なんて口をとがらせてくる。
橘の方がよほどデリカシーなんてもの持ち合わせていない気がするのだけれど、それは口には出さないでおいた。
「おっそいなあ」
平たんなあぜ道をゆっくりと進む僕の自転車。橘の腕は相変わらず僕の腰にまわっている。
さっき派手に転んだせいで慎重になっている僕の足はそう軽やかには進まない。一歩一歩気を付けながら足を踏み出しているせいだろう。まだ不安定ではあるけれどなんとか進んでいるというのに、後ろに乗った橘は「遅い」と連呼している。
「うるさいんだけど」
「だって遅いんだもん」
「好きで二人乗りしてるわけじゃないだろ、こっちは」
「なんか本当に田んぼばっかだよねえ、この辺って」
話を逸らすなよ、と心の中で呟いて再び神経を自転車へと戻す。車輪はギイギイと音をたてている。中学の頃から使っているのだから当たり前だ。むしろよく持っている方だと思う。少しサビついた白い自転車。初めて自転車に乗れるようになったのはいつだっけか、もうそんなこと覚えてもいない。
「田舎だからな」
「田舎だよねえ」
「……で、どこまで漕げばいいんだよ」
「うーん、どこに行こうかなあ」
曖昧に濁して、橘は僕の汗ばんだカッターシャツを握りしめる。しわにならないかと少し不安なのだけれど、もしかしたら唐沢と二人乗りをしていたときの癖なのかもしれないと思って口には出せなかった。
突き刺さる太陽光の下、走る自転車は少しずつ、本当に少しずつスピードをあげていく。頬にあたる風は心地よくて夏の匂いがする。乾いた水草のようなにおいが。