僕らはきっと、あの光差す場所へ
AM 10:30 神域
◇
「で、ここ?」
そう呟いて不服そうに僕が見上げる先には、くすんだ赤い色をした鳥居が青い空をバックに堂々と建てられている。———町のはずれ、山の中にある神社だ。
「ちょっと神秘的な感じするでしょ?」
「神秘的っていうか、神社だし」
「去年の秋祭り以来だなあ、ここに来るの」
また会話が噛み合わない。というかわざとずらされる。
この神社では毎年秋に祭りが催される。僕らはそれをなんの面白みもなく「秋祭り」と呼んでいて、この場所に来るのは一年に一度、秋祭りの時だけなのだ。
道路の脇を通ってまっすぐ山の方へ行くと、この神社にたどり着く。途中、急な坂とカーブがあるけれど、二人乗りに一向に慣れない僕らは自転車を降りてひきながら歩いてきた。
緑、青、深緑、なんと表現したらいいのだろう。僕にはわからないけれど、青々とした木々の下を通るとまだら模様の影が顔にうつって、橘は僕を見て指をさしながら笑った。木陰は少しだけ涼しくて、歩いている間も別に苦じゃない。橘は相変わらず、会話が少し変だけれど。
「葉っぱが揺れる音がする」
「ああ、風か」
「うん……風が木を揺らす、おと」
見上げた先にある鳥居まで続く長い石階(いしばし)。それに沿って植えられた木々の名前はわからないけれど、それらは橘が言うように風が吹くと音をたてる。秋に聞いた乾いたカサカサというような音ではなく、水分の含んださわさわと揺れる音。それは妙に心地よかった。