僕らはきっと、あの光差す場所へ
———午前8時40分。
暗い顔をしていつものように教壇の前に立った担任がそう言い放った。その声は困惑の色を含んでいる。
騒がしかった教室内に突如落とされた言葉にクラス中の誰もが口を閉じ、動きを止めた。窓の外で、水で薄められた絵の具のような白色の雲が、ハッキリした濃い青空にポッカリと浮かんでいる。差し込む太陽の光は眩しくて、僕は窓から思わず目を背けた。
「……一昨日から、唐沢くんが学校に来ていないのは知っているよね。……みんな、いきなりの事で驚いていると思うけど……目撃情報や、彼に関することで何か知っている人がいたら、何でもいいから先生に教えて欲しい。」
教壇に置かれた担任の手が震えている。今年教師になったばかりの、大学生に毛が生えたような新米女教師。分厚い丸メガネの下で、小さな瞳がゆらゆらと揺れていた。
「ウソでしょ?」
「行方不明って……」
「いなくなったってこと?」
「誘拐とか?」
「失踪? 家出?」
「まさか、あいつに限ってそんなこと」
ザワザワと、再び声を取り戻したクラスメイト達が好き勝手に話しだす。担任は今にも泣きそうな声で、「なんでもいいから…おねがい」と呟いた。
やがて、事の重大さを理解したクラスメイト達の顔が青ざめていく。再び窓へと視線を向けると、その光景をいやに冷静に見ている自分の姿が映っていた。
僕だってこのクラスの一員のはずなのに、まるで動物園の動物達を柵の外から眺めているような気分さえする。
———唐沢 隼人(カラサワ ハヤト)が消えた。
それは、この小さな教室に降ってきた、——突然の事件だった。