僕らはきっと、あの光差す場所へ
「……なんて、どう? 今の」
ふわり、と花が舞うみたいに橘が振り返る。グレーのスカートが翻り、ポニーテールにくくられた綺麗な黒髪はゆらりと揺れた。
その笑顔はいつも通りだ。すこし悪戯っぽく笑う、———橘千歳の笑顔。
「どうって、……何が」
「ちょっとそれっぽいこと言ったでしょ? 私ってもしかしてポエマー?」
「……なんだそれ」
僕が視線をそらすと、橘も前へ向き直って再び足を動かし始める。あの鳥居まであと少し。空の青と鳥居の赤が綺麗なコントラストを描いた、夏の神社。
『輝いているときに惹かれるのは、幻想かもしれないね』と。そんな言葉を吐ける橘が僕は少し怖かった。
だって、輝いているのは橘や唐沢隼人のことだろう。橘も唐沢も、お互いの輝いている部分に惹かれたに決まっているのに。当事者は彼女たちのはずなのに。
……どうして、『幻想』なんて、そんな言葉を。
僕はどうやったって掴めやしないのに。手が届きやしないのに。———橘はやっぱり少し、変わっている。そして僕はそんな橘のハッキリ見えない未知な部分が、すこしこわかった。
人間観察なんてしていたって、所詮はこんなもんだ。実際関わってみないと、赤の他人のことなんて何も、わかるわけがないんだ。