僕らはきっと、あの光差す場所へ
「わ、秋とは景色が全然違う」
橘の驚いた声を聞いて反射的に顔をあげる。いつの間にか僕より先を行っていた橘は一番上までたどり着いていて、鳥居の真下から僕を見下ろしていた。あと、10段ほどで僕もあそこへたどり着くだろう。
「春瀬ー、はやくー」
上からかけられる声を鬱陶しく感じながら、すでに重い脚を再び持ち上げる。少しスピードをあげて階段を登りきると、橘が「見て」と神社とは反対の僕らが登ってきた方面を指さした。僕はつられて、橘が指さす方向へと振り返る。
「ねえ、ほら、すごいよ。秋祭りの時とはぜんぜん違うよ」
———ゴクリと息を呑んだ。
山の中、丘の上。この町のいちばん高いところに位置しているここは、町全体を容易に見渡すことが出来る。毎年催される秋祭りのときはここから色鮮やかな紅葉が見えて、乾燥した暖色の世界が一面に広がっているのだ。
けれど、今の季節は夏。
用事がない限りここには滅多に足を運ぶことが無い。ましてやこんな暑い季節に、好き好んでこんなところへ来ないだろう。僕も橘も———きっと初めて見たのだ。夏の、辺り一面緑に染まったこの町を。
「田んぼも木々も、緑だねえ。すごいなあ。すごい、綺麗だね」
僕はそんな橘の言葉に何も返さずに、ただこの景色を見つめていた。絵具で描いたような青空と、心地の良い風が吹く緑あふれる僕らの町だ。狭いようでとても広い、そんな町だ。