僕らはきっと、あの光差す場所へ
「ねえ、春瀬はさ」
吹いた風にさらわるように、後ろから声がする。この景色に不覚ながらも見惚れてしまっていた僕は、その声がどこか遠くから聞こえたみたいに錯覚する。彼女の方へと振り返ると、僕と一緒にこの景色を眺めていたはずの橘は町に背を向けて、真っ赤な鳥居をくぐろうとしているところだった。
「どうしてそんなに、前髪伸ばしてるの?」
———ドクリ、と。全身の血が逆流していくみたいに、血の流れが変わったのを感じた。
目の前を歩いていく橘を追うように、僕も町に背を向けて歩き出した。刹那、砂と砂利がスニーカーにこすれてザラリとした音をたてる。
「……別に、意味なんてないけど」
「なにそれー、切るのが面倒くさいとかでしょ。春瀬って案外モノグサ?」
境内は木々に囲まれていて、地面のグレーにうつった黒色の木陰はまだら模様にゆらゆらと揺れている。ジャリ、ジャリ、僕らの足音がセミの声に重なる。音が僕らを追い越してゆく。
「……顔をあんまり見られたくないだけ」
「ええっ? 何それ、ヘンなの。他人とコミュニケーションとれないじゃん。だから春瀬って友達いないんだ」
「うるせえよ」
前髪が長い———それは他人と自分を隔てる壁のようなものだ。色素の濃い癖のある僕の髪質は、目元を隠すのに十分すぎる。