僕らはきっと、あの光差す場所へ
「……橘は合ってるもんな」

「合ってる、って?」

「タチバナ チトセ、って。映画やドラマにでも出てきそうな名前。橘に合ってると思う」

「……そうかな」



ポツリと橘が落とした言葉は意外にも明るいものではなくて、僕の胸の奥はまたザワザワと騒がしくなる。

 一個、二個、三個、順に大きさを小さくしていきながら石を積んでいくけれど、薄さや重さによっては上手く積めないものもあるらしく、橘は中々苦戦しているようだ。



「……千歳、って、どういう意味なの」

「どういう意味って?」

「名前に由来とか、意味とか……あるだろ」

「意味かあ……。んー、よくわかんないけど、千年、長い年月のことを指すみたいだから、長生きできますようにって、そんな感じじゃないかな」

「へえ……」



さわさわと風が吹く。暑さは木陰とその少しの風のおかげで段々と和らいでいく。橘が積み重ねる石たちを見て、僕もなんとなく、本当になんとなく、それを真似てみる。

さらついた小石の温度を手のひらで感じながら、ちょうどいい石を探すのは案外楽しかった。



「春瀬は?」

「え?」

「だから、春瀬の名前。ひかる、って、どういう意味なの」



ひかる。再び呼ばれたその言葉はひどく僕の心臓を脈だたせる。ナイフで内臓をくり抜いたらこんな感じだろうかと、物騒なことを考えるほど、僕はこの名前を呼ばれることに慣れていない。



「……そのまんま。光る人間になれって、そんなとこじゃないの」

「ふうん、光る人間かあ」



本当、馬鹿げてるよなあと思う。光、だなんて、アホらしいにもほどがある。

さっき、橘が言った『輝いてるときに惹かれるのは、幻想かもしれないね』なんていう言葉が、急に僕の中に戻ってくる。


幻想とか、そういうことじゃない。
たぶん、輝いてる人間に惹かれるのは僕ら当たり前のことなんだと思う。ただ、輝ける人間っていうのは、この世の中で限られた一握りだけだ。例えば、橘や、唐沢のような、そんな人間だけなんだと、僕は思う。

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