僕らはきっと、あの光差す場所へ
「もー、春瀬、ほんと愛想ないんだから」
「……すいません」
微笑みを浮かべてくれた〝ヒロさん〟に申し訳ないという気持ちは僕だってちゃんと持ち合わせているつもりだ。けれど、これが僕という人間なのだからしょうがないだろう。どうやって人と関わったらいいのか、僕にはそのスキルがまるでない。
長い前髪からのぞく僕の目をヒロさんはしっかりと捉えて、再びにこりと笑ってくれた。僕はやはりその笑顔にうまく応えることが出来ないのだけれど、目の前にいる橘が「こういう奴なの、ごめんねヒロさん」とフォローをいれてくれたおかげでなんとかその場を切り抜けることができた。
◇
「んー、サンドイッチも捨てがたいけどヒロさんのハヤシライスは絶品なんだよなあ。あ、でもオムライスも食べたいし、日替わりランチも気になるなあ」
席に着いた途端メニュー表を開いた橘が、あれやこれやと昼食を選んでいる。一応僕にも気を使って「何にする?」なんて聞いてきたけれど、「後でいいから先に選んだら」という言葉をそのまま受け取って現在に至る。やっぱり彼女は遠慮や気遣いという言葉を知らないらしい。
楽しそうにメニューを選んでいる橘を横目に、店内をぐるりと見渡してみる。喫茶店と洋食屋のあいのこのようなこの店は、どうやら橘のお気に入りらしく、よく足を運んでいるみたいだ。
緑のソファ席と木目がきれいなカウンター。雑誌と少年漫画がぎっしり詰め込まれたレジ横の本棚は年季があって、ところどころに設置された観葉植物はやさしい雰囲気をつくりだしている。
嫌いじゃない。むしろ好きだ、こういう空間が。
お腹すいた、と駄々をこねた橘を再び自転車の後ろに乗せて神社を出たのはほんの30分ほど前のこと。ゆるやかな下り坂を風の勢いに任せてくだって、何もない道路を抜けた住宅街(と言っても、きっと都会の3分の一にも満たないほどの密度だろうけれど)にひっそりとたたずむこの店を指さして、橘は後ろで『あそこでお昼にしよ!』と僕の体を揺さぶった。
お金を出すのは全部僕の方だとわかって言っているのか定かではないけれど、橘のことだ、きっと何も考えてなんていないのだろう。