僕らはきっと、あの光差す場所へ
「ヒロさん、ほんとにいいの? 私遠慮せずに頼んじゃうよ?」
「いいのよ、千歳ちゃんにはいつもお世話になってるじゃない。それにほら……あなたが友達を連れてくるなんて初めてだから、私嬉しいのよ」
「もー、ヒロさんったら! へへ、じゃあお言葉に甘えちゃおうかなあ。ねえ、春瀬は何がいい?」
喫茶店らしく飲み物のメニューはとても充実していた。ヒロさんはメニュー表を覗き込む橘と僕を見て優しい笑顔を浮かべている。
「……バナナジュース、かな」
「へえ! 意外だなー。私はイチゴオレ!」
「バナナジュースとイチゴオレね」
ふふ、と笑ってヒロさんが去っていく。その後ろ姿を見つめたあと橘に視線を戻すと、彼女はゆっくりと木目をなぞりながら片手で頬杖をついている。その細い指先を目で追いながら、僕は口を開く。
「……友達連れてきたことないって、本当の話?」
「……春瀬ってバナナジュースとか飲むんだねえ。案外かわいいとこあるじゃん」
「話、逸らすなよ」
「隼人もね、バナナジュース、すきだったよ」
彼女の指先がピタリと止まる。同時に僕の目線もそこで止まる。
橘が考えていることは僕には到底わかりやしないだろうし、わかりたいだなんてそんなこと思ってはいない。けれど、知りたいとは思ってしまう。無駄に空元気をふりまいている、目の前の橘のことを。
「……いろいろ聞きたいことがあるけど、何から聞いてほしい」
「うーん、そうだなあ。じゃあさっきの質問に答えてあげると、答えはイエス。わたし、ここに友達を連れてきたことないんだ。すごく大切な場所だから」