僕らはきっと、あの光差す場所へ
心臓がこそばゆくてグッと喉が締まる。初めての感覚、だと思う。恥ずかしいとも、緊張とも違う、なんとも言い難いこの感情を、言葉にする方法を僕は知らない。
「……別に、話したくて話したわけじゃなくて、橘がすごいだとか、意味わからないことを言うから……」
「はははっ、春瀬、顔赤いよー? 意外とかわいいとこあるよねえ」
「……うるせえ」
「ははっ!そんで、たまに口調が悪くなる。春瀬って本当はすごくオモシロイよ。なんでわたし、今まで春瀬と関わろうとしなかったんだろうって後悔してるもん。本当だよ?」
「そういうのいいから、ほんとに、」
「照れないでよー。本当に本当に、よかったって思ってるんだから。今日、誘ったのが春瀬でよかったって、わたし本当にそう思ってるんだよ?」
「……まだ数時間だろ」
「時間なんて関係ないよー。春瀬だって楽しいって思ってるくせに」
「楽しくない」
「うーわっ、素直じゃないなあ」
はは、って橘の笑い声に、僕はまた笑う。おかしいよな。僕らは橘の彼氏を、クラスメイトを、捜しに来たのに。学校をサボって、向かい合って、空腹を満たして、笑いあっているなんて。唐澤が知ったらどう思うだろう。おかしい。僕らはきっとおかしいし、きっと変わっている。
それから僕らは、ナポリタンを食べ終わっても、サンドイッチの最後の一つが消えても、お互いのことを話し続けた。
例えば橘の好きな物。イチゴオレとソーダ味のアイス。猫とペンギン。真夏とテニス。ブルーハワイのかき氷。数学は好きだけど点数がとれないタイプ。一番の得意科目は英語。血液型はAB型、誕生日は1月1日。ウソかと思ったけれど、どうやら本当らしい。元旦が誕生日なんて、なんておめでたい奴だ。僕がそう言うと、お正月とかぶっちゃってお祝いしてもらえないから最悪だよ、なんて返事が返ってきた。冬生まれというのはなんだか意外だった。
誰かに自分の話をするのは初めてだった。誰かの話に相槌を打ちながら笑うのも初めてだった。いろんなことが僕に一気に降りかかってきて、けれどそれは心地の悪いものじゃなかった。
僕は、窮屈な日常から抜け出したこの非日常の中で、橘のことを知りたいと、わかりたいと、思ってしまっている。それは今までの僕なら決してあり得なかったことで、自分の中の感情がうまく呑み込めない。けれど、しょうがないのかもしれない。だって人と笑いあうことが、こんなにも自分の中を暖かくするなんてこと、知らなかったから。