僕らはきっと、あの光差す場所へ
◇
よくここに来ていた、と橘は言った。ここなら誰にも見つからないから、と。
「……ホコリくさい」
「文句言わないのー、春瀬が来たいって言ったんじゃん」
いや、そもそも橘が唐澤を捜そうだなんて言い出したのだから、彼がいなくなる前によく来ていた場所を訪れるなんて当たり前の行為だろう。むしろ、真っ先にここに来たってよかったはずだ。
僕らの高校と真逆の町はずれ。田んぼの中にそびえ立つ林の片隅に自転車を置いて奥へ進むと、周りからは決してわからない小さな小屋がひとつ建っていた。廃墟というのだろうか。木々が影になって薄暗く、湿ったような匂いが鼻をつく。木製の扉はいとも簡単に開けることができて、中はふた部屋に分かれていた。いつか人が住んでいたのだろう、薄汚れてホコリをかぶったままのソファやテーブルはそのまま放置されている。
「……こんなとこ勝手に入っていいのかよ」
「さあ? 私と隼人はよく来てたよ」
慣れた手つきでソファのホコリを払うと、そこにドカッと腰を下ろす。
「……汚くないの、そこ」
「ああ、ダイジョーブだよ。最近来てなかったから薄くホコリかぶっちゃってるけど、隼人といつも掃除してたから」
「掃除って」
「勝手に使わせてもらってるんだから、綺麗にするのは筋でしょ?」
古びた緑色のソファ。ところどころシミができているけれど、確かに廃墟のものにしては大分綺麗だと思う。背の低いウッドテーブルも、くたびれたカーテンも、古いけれどよく見れば汚くはない。
「……何、ここ。隠れ家かなんか? 秘密基地とか?」
「んー、まあそういうのになるのかな。よくわかんない」
はしゃぐ素振りも見せず、珍しく淡々と答える橘が逆に気味が悪い。相変わらず口元だけ笑ってはいるけれど。